小説みたいな恋をして
翌日、唯史はすぐに手紙を出した。夜書いた手紙は無意識に凄い内容になるというのはよく言われているが、読み直さなかった。多分、それが自分の本音のような気がしていたから。
いつものホームに立っても今日も光紀は現れない。学校にも来ていなくて、担任は風邪だと言うが、もう信じる気にはなれなかった。
「どうかしたのか。唯史、なんか元気ないぜ。」
ナーバスがとうとう表情にも出てきてしまったのか、蒲田が顔を覗き込んでそう言ってくれる。蒲田の事だから本気で心配してくれているのだろう。少し、気が楽になった。
「なぁ、お前恋した事あるか?」
無意識に、そう尋ねてしまって唯史の方が逆にうろたえる。蒲田は少しだけ意地の悪い笑みを浮かべた。
「良かった。」
「何だよ、それ。」
はっきり言って今の唯史は傍目から見てもそんな言葉をかけられる状況ではない。
「だってお前恋をしてるんだろう。」
「望みはないんだよ。」
自分で言って置いて余計に辛くなる。が、
「まぁいい薬だろう。」
蒲田が返してきたのはそう言う言葉だ。
「冷てぇのな。」
でも同情されないのが却って気持ちよかった、ここでな部冷められたらキッと悲劇に酔ってしまう。代わりに蒲田は、
「これまで女の子を弄んできた報いだろう。そしてそんな傷心のお前にこれを渡そうと思ってな。」
そう言って手渡されたのは一枚の用紙。見るとそれは文化祭のミスターコンテストのエントリー用紙だった。突然の事に目を丸くしている唯史に、
「これに出ればきっとモテモテだ。いいリハビリだろう。」
どうやら蒲田が言いたかったのはそれらしい。
「悪いけどパス。」
今はまだ新しい恋などできるような心境ではなかった。
「いいだろ、別に。裏ミスにでろって言ってる訳じゃあないんだから。」
「 絶対ごめんだ。」
裏ミスというのは所謂ミスコンテストの裏版で出場者が全員男性という。まぁ簡単にいってしまえば女装コンテストの事だ。文化祭ではミスとミスターのそれぞれ表と裏のコンテストがあるのだが、実を言うと一番注目されているのはこの裏ミスだったりする。因みにミスタコンに優勝するともれなくその後裏ミス優勝者とカップルを気取れるというおまけ付きだ。昔は表同士裏同士でカップルにしていたらしいのだが女子からセクハラ問題が取り上げられて。同性カップルで過ごす事になっていた。さらに男同士の場合受けを取る為に色々とパフォーマンスを要求されるのだ。
いくら同性である光紀が好きだとは言っても唯史としては男同士でしかも人前でキスなんてするのは死んでもごめんだった。
だからなんとしても抵抗する。
「大体どうしてお前がそんな事斡旋するんだよ。」
しかしそれを聞いた瞬間、唯史は蒲田の罠に落ちてしまっていた。
「実行委員の木元ちゃんに頼まれたんだ。」
木元というのは性格の良さが人並みの顔を何とか可愛く見せている唯史の同級生だ。
「そうか、でもまぁ他に格好いい奴はいるだろ。そっちを当たってくれ。」
と、言っては見るが、
「恋に悩むお前が俺の恋を邪魔する分けないよな。」
一見悪意のない笑顔がしっかりと逃げ道を塞いでいく。覚悟を決めて、エントリー用紙に名前を書いた。その時、
ドアの方で、光紀を呼ぶ津村の声が聞こえてくる。
他の級友は動いてくれなかったので、唯史は仕方なく光紀の不在を津村に伝えに行った。すると、
「長谷川君は、雨下君の友達なのよね。」
妙に強い口調で聞かれてしまう。その後には脈絡もなく。
「あみだくじは、絶対よね。」
よく分からなかったが、気合いだけでこれにも頷いてしまった。
「じゃあいいわ、ありがとう。」
そして謎のまま、津村は去ってしまう。
「お前、大丈夫か。いまのって3年の津村先輩だろ。よく話せるな。」
津村の姿を呆然と見送っていると、蒲田が後ろから声をかけてくる。
「ああ、でもそんなに言う程の事か。」
確かに津村は変わった人間だが、基本的に話す程度では問題ないと思う。
「だって有名だろ。綺麗だけど奇抜で普通じゃないって。」
「そう、なのか。」
答えながら自分が津村と話すのが平気な理由が分かった。綺麗で奇抜というのは姉の代名詞のようなものだ、どうやら知らないうちに自分にはその手の免疫が出来ていたらしい。
もしかしたら意外と苦労性かもしれない、そんな事実に気づいてちょっとショックな木曜の昼だった。