STRAY CAT 8

 


 




じっと瑛を見返す、すると、信じられないようなことが起きた。

「アント、ワーヌ。」
「どうして分かるんだ?」

俺は今人間で、猫が人間になるはずなんてないのに。聞き返す俺の言葉に返ってきたのはけれど、
「え?」

戸惑い。

「だから、お前俺の正体があの猫だって気づいたんじゃなかったのかよ!」
もう一度聞きなおすと。
「本当に、そうなのか・・でもだとしたらどうして俺の所になんか来たんだ。」
そ、れは。
確かに俺は真由を埋めたこいつの事を憎んでた、でもそれだけじゃなくて病気でつらいくせに一人でやり過ごそうとする姿が痛くて、放って置けなくて。
でも、心配したなんて口が裂けても言いたくなかったから。
「どうだっていいだろ、そんな事。」
プイ、とそっぽを向くけれど、
「赤くなってるぞ。」
うるさい
「のぼせたからだ。」
「俺は、ペットなんて飼う気はないんだが。」
分かってる、そんな事。
「お前なら、飼ってやらないこともない。」
「はぁ。」
驚いて、振り返って

「俺に奉仕してくれるならな。」

ってそれは、つまりまた、こういう事をするって言うことで。
途端に俺の中に今まで味わったことのない肉体的苦痛の数々が蘇る
「馬、冗談じゃない。二度とするか。」
「それなら、また野良に戻るんだな、出て行け。」
そう、言われた瞬間、脳裏を過ぎったのは野良だったころの真由との楽しい時間。でも真由はもういない、俺は、一人だ。
だったら、どうやってこれから生きていけばいいというんだろう?
見上げれば、同じ表情をした瞳に出会った。
こいつも、
こいつも、一人だった。
病気でも助けてくれる人もいなくていつも一人で。
「俺が出て行ったら、お前一人なんだぞ。」
そう言ったその瞬間、勝ったと思ったんだ。これで瑛は俺を置いておきたくなるって、なのに。

「ああ、慣れてる。」

そう答えた時の瑛の顔が、あんまり普通だったから。
「馬鹿。」
抱きしめずには、いられなかった。
「その、トウ様ってのは一緒に居てくれなかったのかよ。」
抱きしめながら俺は縋り付くように尋ねる。
「義父様は俺の戸籍上の父親だ、目は掛けて下さるが。それだけだ。」
顔が見えない所為か瑛は少しだけ素直だった。ポツリポツリとかつて抱かれたこと、今はそれすらもなく俺と勘違いしたように戯れに自分に相手をあてがってくることなどを語ってくれた。
なんて奴だよ。
酷い、そう俺は憤るのに、
瑛の話は淡々とした口調で。
こいつは、ずっとそれが当然だったんだ。当たり前の会い仕方も知らずに。
辛いという痛みさえ、感じられなくなったら、一体どうやってこいつは幸せになれるんだろう。
猛烈な庇護欲が俺の中を満たした。
「しょうがないから、居てやるよ。」
お前も一人、俺も一人だ。
瑛は一度虚を疲れたような顔をして、けれどすぐに笑った。
その笑顔は、本当に嬉しそうで。
もしかしたら本人も気づいていないのかもしれない。
これが見れただけでも、同居は成功だな。
こうして一人ぼっちの壱里真と高杉瑛は二人になった。
って、ハッピーエンドのはずだったんだけど。

 

次の瞬間、瑛はいきなり言い出してきたのだ。
「本当の事を黙っていたお仕置きを兼ねて、雇用時検診をしてやる。」
え、はぁ?
いきなり、立たされて。
だから、まだ足腰なんていうことを聞かないって言うのに。
「手を、上げてみろ。」
当然のように、瑛が言うから従ったら。
「って、おい、ちょっと。」
俺は今、お前の所為で、ひどい状態なんだぞ。
それを、一体どうして。
どうしてタオルでシャワーヘッドに手を括り付けられなきゃならない。抗議の眼差しに、
「新種の生物だからな、じっくり調べないと。」
瑛はしゃあしゃあと言って俺の耳を食む。
「ひっ・・にゃ.」
大きすぎる感覚、こっちの耳は人間の何倍も鋭いんだ、そんなところ甘がみされたら全身が、ビクリとしなる。
耳痛い、辛い、なのに瑛は冷静に
「感覚はあるのか、じゃあパブロフの犬にでも仕立ててやろうか。」
なんて言ってくるから反論したかったんだけど。
「、れ・・犬じゃ、ない。」
だめだ、体がむずむずして、うまくしゃべれない。そんな俺を、瑛は笑った。
「パブロフの犬っていうのはな。」
言いながら、そっと股間を撫でる。
「ぃや・・ぁ」
ゆるゆると、揉みしだきながら。
「条件反射の実験だ。」

そして耳をまた、カプリと噛む。

「んっ。」

敏感な器官に、歯を立てられて、目尻から涙が零れた。

 

 

 

 

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