STRAY CAT 4

 


 


気がついたらもうお日様は姿を隠そうとしていて、台所の窓から西日が入ってきていた。

やばい。

俺、一応瑛に雇われてるってことになってるんだから、こんなことしてたら。
けどその危惧は当たらなかった。
「こういうとこは、可愛いじゃん。」
冷静な色素の薄い瞳を閉じた瑛は天使のような顔で眠っていた。
こうして見ると、やっぱり綺麗だな。よく通った鼻筋も、ばさばさに長いまつげも。人間なんてよく知らないから比べられないけれど、それは花とかよりずっと綺麗で、
俺はしばらく目が離せなくって、
って、何やってるんだよ、こんな奴。
俺は、借りがあるから返してるだけなんだからな。
そう、言い聞かせてみる。
って、そんなことより急がないと瑛も起きる。俺は慌てて台所に行って、
暫くすると俺の人間よりも敏感な耳が音を拾った。
ふぅ、ギリギリセーフか 
「あ、気がついたのか。」
俺はサボっていたことなんておくびにも出さずにそう言って瑛の前に姿を現した。あ、怒ってない。それが嬉しくて
「今、夕飯作るな。薬局のおじさんに聞いたんだ。」
わざわざ近くでそう言った。それからすぐに台所に戻って、
「はい。」
と、差し出すのはレトルト白粥だったのだ。一生懸命作った俺の初作品、なんだけど。
「家政婦の癖に料理すらできないのか。」
瑛は呆れ顔で、
「大体、俺が食欲がないといったらどうする気だったんだ。」
うぅ
そうだよな、俺、考えが足りないかも。得意な気持が冷水をかけられたみたいに縮んでしまって、俺は小さくなる。
けれど瑛はその後ため息一つ付いたもののおかゆを口に運んで、横に座る俺に、
「お前の、分はないのか?」
聞いてくる。俺は応えた。
「瑛のお金、勝手に使っちゃ悪いだろ。」
こう見えても一応人間の常識くらい知ってるんだからな。
でも俺の言葉に瑛は虚を疲れたような顔をして。
あれ、もしかして変な事言った?
恥ずかしくて俯きそうになる俺に。
「そうか。」
瑛はそれだけ言って粥を食べる、お腹、空いてないわけないよな。食べる速さが喜んでもらえたみたいで、嬉しくて、更に、
「次からは、お前の分も買って来い。」
それだけ言ってまた食事に戻る。俺は大きく頷いて、二人の間に穏やかな時間が流れていく。
何も言わないけれど、そこにある空気はどこか暖かくて食事がおいしくなる。
食事が終わると、俺はすぐに食器を洗って、えと、それから風邪のときは汗をかくから着替えさせるんだよな。それでもって温かい飲み物で身体を温めて。
俺は薬局で習ったとおり瑛の世話を焼く。早く元気になってほしいから。
そうしたら、
「まるで新妻だな。」
それって、番の相手っていうことで、
「ばっ、病人、だからだろ。」
なんで、こんなに心臓バクバク言ってるんだよ。
俺たちどっちもオスなのに、
「じゃあ、せいぜい給料分は働いてくれ。」
クスクス笑う瑛に
「甘えるな。」
なんだか腹がたってそういえば、
「お前はこの仕事のこと、どこまで聞いている?」
不意に、瑛が真剣な顔をした。
「え、どこまでって・・ぜ、全部だよ。」
嘘が悟られない為に、俺は慌ててそう言ったけど。その瞬間浮かぶ軽い失望感。一体、どういうことなんだろう。
「夜の世話までだぞ?
それで、いいのか。」
聞かれて、
「だめなら、ここに居られないんだろ。」
「だろうな。」
即答だった、でもそのくせ曖昧な言い方で。どういうことだよ、それ。気になって尋ねれば
「自分はともかく養い親は思い通りに事が運ばなければ気がすまない性格だ。」
それが瑛の答えで、だから、
「なら、いいさ。」
俺は笑った。瑛が嫌がっているんじゃなかったらいい、その『夜の世話』がどんなものかはまだ良く分からないけどなんでも付き合ってやる。俺の言葉に、
「そうか。」
瑛はやっぱり表情を変えないままそう言って、その話は終わりだった。
こうして俺はこの家の住人になったのだった。

 

 

 

 

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