STRAY CAT 3

 


 

そして、人間になって二日目、とうとう俺は一度来ただけの瑛のマンションに着いた、んだけど。
「アント。」
小さく俺の名前を呼ぶ瑛のぐったりと青白い顔、大丈夫なわけなんてない。
「おい、あんた、大丈夫か。」
案の定額に手を当ててみると。
「すごい熱じゃないか。今、布ぬらしてくるな」
俺はすぐにあの時瑛がミルクを温めてくれた台所に向かう。人間の常識とか風習は一応テレビで見たりしていたから不自由はなかった。けど、

「もしかして、義父様に頼まれた家政婦か。」

耳慣れない単語を言われて一瞬戸惑ってしまった。家政婦って確かお金で雇われて家の事とかする人だよな。
「え、えと、あの。」
それなら、俺がしようとしてることと同じだけど、でも俺はお金で誰かに雇われてるわけじゃないし。けど一体どう説明すればいいんだ、猫が人間になったなんて言っても頭がおかしくなったと思われるだけだ。そんな風に悩んでる俺に瑛が投げかけてきたのは不法侵入者かなんていう冷たい台詞、まずい、このままじゃ追い出される。そう、思ったから。
「そう、そうなんだ。」
嘘なんてばれる、そう思うけど。でも今だけだから、瑛が良くなれば俺も安心して追い出されてやれるから、と。
「えと、そのトウ様って言うのから頼まれた家政婦っていうので。壱里真って言います。あなたの看病がしたくて。」
初めての嘘、怪しまれないように言えたかな。なんて心配はどうやら杞憂だったみたいだ。
「ならとりあえず、そこに財布があるから風邪薬とスポーツドリンクを買って来い。」
瑛はすぐに用事を言いつけてくれて。
でも、薬局って薬を買うところだけどどの店のことなんだろう。
だって、しょうがないだろう、猫に難しいことが分かるわけがない、ぐずぐずしていると
「薬局はエントランス出てすぐ右の道を100メートル、後左に曲がって三つ目の角を右に回って二つ目の交差点を過ぎた辺りにある。そこで、薬は店の人間に聞けば分かるだろう。」
瑛は苛立ちながらも説明してくれて。
「じゃ、すぐ行ってくるな、待ってろよ。」
俺は玄関を飛び出す、こう見えても記憶力はいいんだ。言われたとおりの道を通って。
「あった、あれだ。」
と、見つけたのは白い服を着た人間のいる大きな店だった。
けれど、自動ドアを開けて入ってもいつもは俺たちを追い払う親父は同じ人間になってみるとちゃんと親切で『風邪』について色々教えてくれた。
つまりは疲れているようなものだから暖かくして薬を飲んで寝れば直るらしい。けど何日も続くようなら栄養もつけなくちゃいけないっていうから。
勝手だって思ったけど俺は『おかゆ』というのも買った。
本当は自分で料理をしてみたいとも思ったけど、失敗したら困るのは瑛だし。
それに、食べ物や薬に換わるこのお金もそんなに簡単に使っちゃいけない貴重なものだって聞いてたから。
瑛のものだけ、慎重に買った。そして、
「以上、三点で合計725円になります。」
俺はとうとうやり遂げたんだ、買い物を。
嬉しくて、瑛のことが心配で俺は走って家に帰った。
「瑛、ただいま」
ドアを開けて駆け寄って、見せようとする戦利品、けれど。
「瑛?」
目を閉じたまま、瑛は答えない。息はしてるけど、
風邪、そんなに苦しいんだろうか。
俺は迷わず薬のパックを空けた。
だって、親父はこの薬を飲んで寝れば治るって言った。
だから、治って欲しくて、俺は瑛の口の中に強引に薬を入れる。
でも、だめだ、丸い錠剤は喉の奥へは消えてくれない。
どうすればいい、考えて答えは目の前にあった。
そうか、これで流し込めばいいんだ。
ペットボトルを開けると、俺はそれを瑛の口元に持っていく。けれど半透明の液体は意識のない薄い唇の上をすべるだけだった。
「くそ。」
俺は苛立ちまぎれに呟いて、でも次の瞬間ペットボトルを口に運ぶ。
自分でも、よく思いついたと思う。口移しなんて。
ひやりと、柔らかな唇だった、けれど舌で強引にこじ開ければ中は熱い。
瑛の舌に残る錠剤を、なんとか奥に押し込んだ
コクリ、喉が鳴って。
よかった、これで直るんだよな、瑛。
俺は安堵のため息を吐く。
でも、なんか、安心したら眠くなってきた。
そうなんだ、猫の仕事は昼寝。
昼間ずっと起きてるなんて、冗談じゃなくて・・・・・・。

 

 

 

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