STRAY CAT 2
翌朝、俺は人間の声で目を覚ました。
「風邪か。」
見れば何の感情もないような顔で瑛がそう呟いている。風邪って病気だよな、それなのに瑛は昨日と同じように普通に歩いて温かいミルクを用意してくれる。
って、おい。なんか足元おぼついてねぇぞ。
けど俺の思いが伝わるはずもなく俺は瑛の手によってベッドから床に置かれたミルクの前に移動させられる。
一瞬悩んで、けど俺は素直にミルクを飲んだ。
だって腹減ってるし、せっかく用意してくれたんだもんな。
静かな部屋の中を雨音だけが空間を埋めていく。
「嫌な音だな、薬はなし、傘は昨日の雨の中か。」
瑛はそのままベッドに入ってぎゅっと毛布の中で自分の体を抱きしめた。
寒いのかな?
「みゅ。」
ミルクを飲み終えた俺はそっと寄り添って。なぁ、あったかいだろ、寒いとき俺いつも真由とこうしてたんだぜ。
なぁ、元気になれよ。
「媚びてもだめだぞ、動物は飼わない。」
瑛の口から漏れるのはそんな台詞、でも弱ってるからかな、腹が立つよりなんかかわいく見えて。
あ、顔、少し楽そうになってる。
瑛は微笑むことすらしない、けどなんかそれでも、満足だった。
だからそのまま寄り添っていると。
「一人暮らしはいいな、笑わなくてすむ。」
どういう、意味だろう。
お前はいつも無理をして笑っているのか?
「義父に心配をかけたくないんだ。」
笑顔なんて得意じゃないのに、と。
瑛は自分が好きではないみたいだった。
だからこの皮肉気な笑みは瑛自身に向けられたもので。
そんなの、駄目だよ。俺は好きだから。
必死で顔を顔にこすり付ける。
だから、自分を嫌わないで。
願いをこめれば、
「お前は、暖かいな、暖かい・・・・日向の、匂いがする。」
苦手だといったくせに優しい笑顔がそこにはあった。そして、
「雨の中放り出すのも酷だからな。」
何だよ、その言い訳。
素直じゃないんだから、
でもこいつといられるのが俺もなんだか嬉しくて、けど。
夜、雨はやんでしまった。
瑛はさっきよりも苦しそうな顔でそれでもベランダの戸を開けて猫を外に出す。
「猫ならば、自由に生きた方がいいだろう。」
あ、お前鍵閉めたな。
どんなに鳴いても、もう俺の声は届くことはなかった。
それで話は冒頭に戻るわけだ。
これまでの経緯を思い出して俺は新たな決意を固める。
今こうしている間だって映画病気で苦しんでるかもしれないんだ、一刻も早くマンションに行かないと。
・・とは言ったものの、えと・・あれ、どっちだっけ?
動き始めたとたん、オレは迷った。
猫と人間じゃ勿論背の高さってやつが全然違う、だから見える景色も違えば地面の匂いを嗅ぐことも出来なくて。
しかもこの雨だ。
濡れても勿論俺が着替えなんて持ってるわけないし、猫のときみたいに水気を切って乾かすってわけにもいかない。
もう、本当人間って不便だよな。
でも俺の命を助けてくれたのもその人間で、だから無闇に嫌っちゃいけないって言うのは分かるんだけど。
けどやっぱり真由を、妹を埋められたのは辛かった。
抗えないような力で川原に連れて行かれて、どんなに抵抗しても無力に妹との別離を噛み締めさせられて正直恨んだ、憎んだ。
でも、
笑顔が、すごく綺麗だったから。
あんな顔されたら許さない訳にいかないじゃないか。
俺だってもう分かってる。
瑛が自分が濡れているのもそのままに俺のことを暖かい風呂に入れて優しくしてくれた事。
それから一人がいいなんて言うくせにすごく、寂しそうな目を見せること。
だから、
償いってわけじゃないけど力になりたくて俺は人間になった
んだけど、だから一体ここはどこだよ!
俺が正確な道を把握するまでには、まだしばらくの時間が必要だった。