UP SIDE DOWN
自分でも見えるほどに勃ちあがったそこに、リボン結びにされた黒いゴムが揺れる。
「ゃ・・いや」
先走りすら出せなくなったそこの代わりのように涙が溢れる。自分の体の侭ならなさが情けなくて、どうすることも出来ない。
「入れるぞ」
突然の言葉。
それ以上何の前置きもないまま、熱い何かが先ほどまで指に犯されていた秘部にあたらる。
「ッ・・・ッツ」
声を出すことも出来なかった。
柿崎の欲望の、その熱い圧迫感に押しつぶされそうになる。けれどそんな啓一の事情など気にもかけずに柿崎は腰を動かし始めた。よく慣らされたそこを、太くて硬いモノが滑るように進んで奥を突いた。
「ぅあああ」
目の前が一瞬白くなる、引き付けられた太ももの裏に感じるのは柿崎の腹筋だ。けれどこれ以上奥へはもう来ないという安心感より先に、限界までそれは引き抜かれて、
「ぁ?・・・ぁアあッ」
今度は速い。
抜き差しを繰り返すうちに結合部からあわ立つようにローションが漏れる。直接は見えないそれは、しかし濡れた音となって啓一に現実を伝えた。
激しく注挿を繰り返す度に、めくり上がれそうになる粘膜が恐怖感を高めてくる。
恥も外聞もどうでもいい。痛い、気持ち悪い、助けて欲しい。
「ぁ・・・ィや・・抜いて」
か細い声で必死の哀願、けれど返ってきたのは、
「もっと腰を振れ、快楽を貪れ」
そんな言葉と啓一の腰を掴んで乱暴に揺らす手。
「嫌だ、お願い、やめ」
プライドなんてもう欠片もなくなっていた。言われたままに腰を振って、だらしない声を上げながら行為が終わることだけを願う。
「ふ・・ぁ・・ぃ・・やぁ・・ぁ、あ」
もう力の入らないからだが、ガクガクと揺れる。その頼りなさに思わず柿崎の腕を掴んで、啓一はいつの間にか自分の手が自由になっていることに気が付いた。
「ぅ・・ぐ・・ぁっ」
内を襲う質量が大きくなって、相手が感じたのが分かった。羞恥と悔しさが興奮になって身体を敏感にしていく
「中出しと顔射、どっちがいい」
突きつけられる、屈辱的な選択肢。
「んな、分からない」
「なら今日は中にくれてやる」
それはとても一方的な行為だった。びくりと一際強く穿たれたかと思うと、じわりと知らない熱が内側から広がっていく。
男の精を内側に吐き出されたのだと自覚すると急に恥ずかしくなった。
「うわぁああ」
信じられない、どうして、こんな。
自分の中から流れ出たこの液体があれなのだと思うと嫌悪感に体中を掻き毟りたくなる。
それなのに、
「バックで感じすぎだ、この淫乱」
ぴしゃりと尻を叩かれた瞬間、解かれた前から勢いよく自分のものが噴出して啓一の顔を汚す。
「あ」
頬を伝うどろりとした液体に、鼻を突く青臭い匂い。
「くそ、くそ、くそ」
こんな行為で達してしまった自分が悔しい、それどころか抵抗も出来ないまま感じて、あんなにみっともない声を出した。
「喜べ、素質はあったんだ」
既に着衣を整えた柿崎がこちらを見下ろしながら言ってくる。
「ふざ、けるな」
精一杯の意地も、
「その状態で言っても様にならないな」
柿崎は何事もなかったように嘲笑う。そして啓一を放置したままどこかに行ってしまった。
一人になると無理やり開かれて擦られた部分がじわじわと痛みを訴えてくる。
「ひっ」
寝返りを打った途端体の奥から流れ出てきたものはローションだけではなかった。女ではないから孕むわけでもない、ただの暴力の一種だと言い聞かせているのに。
「くそ」
顔に付着した青臭い液が、お前も同罪なのだと見せ付けてくるようだ。
「なんだ、もう後悔しているのか」
不意に聞こえてきた声、見れば柿崎は先ほどの格好のまま手に何かを持っている。この行為は、まだ終わったわけではないのだろうか。
「馬鹿にしてんじゃねぇよ」
また警戒心を強くして啓一は鋭い視線を柿崎に向けた。身体を起こして余裕も見せて、こいつにだけは弱みを見せたくないと思うから必死だ。初めての情事の後でも気丈なその姿に、柿崎は満足そうに微笑んで口を開いた。
「ガキから若造に昇格してやる」
全然褒められたような気がしない。
「いらねぇよ」
啓一は反抗するように横を向いた、けれど書きざいの気配はすぐに近くなって、
「ほら、足を開け」
「まだやるのかよ」
「後始末だ、毎回やる基本だからな、次からは一人で出来るようにしろ」
いつもの無表情のまま、機械的な仕草で赤く貼れた啓一の秘部にクリームを塗った指を差し入れる。
「くっ」
柿崎の長い指は今は簡単に啓一の内に入った。けれどそこには先ほどのようなめくるめく性衝動は全くない。
要するに奴の手は自在に相手の快感を操ることが出来るのだ。弄ばれたからではなく情けを受けたのだと悟って、更なる悔しさがこみ上げてきた。
目の前の男は自分より何枚も上手だ。
結局、啓一は大人しく清拭の行為を受け入れた。けれどそれは決して敗北を認めたわけではない、柿崎に勝つにはその技術すら盗んでやらなければならないと思ったからだ。
実際にはほんの数分の時間は、恐ろしく長く感じた。
中のものを完全に掻き出すと、柿崎は無言のまままた背中を向ける。先ほどまで感じた柿崎の熱も欲望も今はどこにもない。
「キスとか、しないのか」
自分の声に啓一は驚いた。何故そんな事を口にしてしまったのか自分でも分からない。ただ、情事を教えるという割に淡白すぎる事後の態度に疑問を持っただけかもしれない。それでも、まるで求めるような自分の発言に今度こそ啓一は後悔した。
こんな事を言えば夢をみすぎだとまた嘲笑われる、それでも逃げることだけはしたくなくて真直ぐに相手を見れば、
「大体、あれは恋人のするものだ」
帰ってきた妙にロマンチックな返答に、啓一の悪戯心が刺激される。
「とか言って下手なんだろう」
「その言葉、後悔させてやるよ」
挑発に珍しく簡単に乗って
月明かりも届かない部屋で交わした口付けは、
何故か酷く甘かった。