☆オトコイ☆
店を出ると、辺りは既に暗くなっていた。思ったより長く話し込んでしまっていたらしい、あっという間で気がつかなかった。
この分だと兄に何か言われるかもしれないと、弘貴が憂鬱になりかけたとき。
「あっ」
「どうした?」
「兄さんが、居たから」
制服はどこかで着替えているようだったけれど間違いない、よく知った顔が綺麗な女性を連れて歩いていた。すると、それを見た克彦は信じられないような事を言った。
「あいつ、同伴出勤だ」
意味はよく分からない、けれど兄が働いている筈がないのだからおかしいと反論それば、
「ホステスがこの時間になんてそれ以外ないだろ」
その回答に、なんとなく克彦が言いたい事がわかってしまった。同伴出勤というのはつまり水商売の人間が店に客を連れて行く事なのだろう。けれど、
「なんで、あの人がホステスだって分かるんだよ」
いくら兄が遊び人でもそんな事までしているとはおもわなかった。それに、確かに横にいる女性は目を引く容貌をしているけれどそれだけで水商売だと決め付けられない。そんな弘貴に
「アヤさんとこにきてたから、間違いないよ」
克彦は確信を込めて言い切った。しかしおかしい、
「あの人って何者なんだよ」
よく考えたら益々わからなかった、ホステスと知り合いで克彦の事を顎で使って。怖そうな人たちをうまくあしらってしまう少年、彼は何者なんだろう。
「あの人は、同業者に頼られるような凄い人なんだよ」
克彦は言う、しかしホステスが同業者というのはどういう事なんだろう。ゲイという存在がある事は知っているけれど、それはビジネスとして成り立つほどだとは弘貴には思えない。だからつい、確認してしまった。
「男、だよね」
「お前も男の俺を好きだろう」
「うん」
改めて言われると照れてしまう。
「何赤くなってるんだよ、むっつり」
「違うよ」
弘貴は否定した。ただ、自分からはああまりに遠い世界に戸惑っていただけだから。
けれどそんな人と知り合いと言う事は克彦も普通ではないのだ。そう考えるとまた言葉が出てこなくなって、二人は黙り込みながら歩いた。けれど、一見のゲームセンターの前で不意に克彦が立ち止まる。
「ちょっと、よって行っていいか」
「いい、けど」
けれど弘貴も来た事があるこのゲームセンターはクレーンゲームが多くてどちらかというと女性向けだ。どのゲームをやるのだろうと付いていけば、着いたのはやっぱりクレーンゲームだった。
「カモれる台があったら、弟達のおやつとって行こうと思って」
言いながら克彦はクレーンの中に積み上げられたお貸しの山を物色していく。その様子は男前の外見にあまりに不似合いで弘貴は小さく笑ってしまった。けれど、
「今日は駄目だな」
残念ながらとりやすそうな台はなかったらしい、ゲームをやっている彼を見るのはお預けになりそうだ。少し残念に思いながらなんとなく周囲を見ていると。
「あ」
「どうした」
「これ、母さんが」
それは、母親が最近とても贔屓にしている何かのキャラクターのぬいぐるみだった。隠れ少女趣味の母は、実は可愛いものに目がないのだ。とはいえ大きなそのぬいぐるみが取れる可能性は限りなく低い、お金の無駄だからと弘貴がその場を去ろうとすると、
「取ってやるよ」
「いいって」
「親孝行できるうちにしておくもんだろ、馬鹿」
克彦は自分の財布を出して早速硬貨を入れてしまった。そして、
「ほら、やるよ。付き合いだした記念のプレゼント」
と、一度で取ってしまったぬいぐるみを袋に入れて弘貴に渡してくれる。
「ありがとう」
「大したことねぇよ」
嬉しくて、前回の笑顔でそう言う弘貴に克彦はぶっきらぼうに横を向いて。
「他に欲しいのあったら、今度はお前に取ってやるよ」
その言葉に弘貴がどれだけドキドキするか分かっているのだろうか。
弘貴にとってまだ克彦は謎で、よく分からないこともいっぱいある存在だった。けれど、告白する前よりずっと気持ちは惹かれていて。
今年は今までで一番楽しい夏休みになりそうな予感がした。