☆オトコイ☆



 家に帰ると話し声が聞こえてきた、どうやら兄が電話しているらしい。普段ならば兄の電話に弘貴が口を挟む事はない、けれど、
「だから、体だけの関係でいいって言ったのはお前だろ。ああ、・・・・そうだ。・・・・これに懲りたらお前も一次の気の迷いなんかに本気になるなよ」
あまりに不穏な内容に、黙っている事が出来なかった。体だけが目的という言葉は、付き合うときに克彦に言われた事に似ていた。だから、どうしても電話の相手を他人だと思うことが出来なかった。
「電話、誰?」
尋ねれば泰隆は簡単に答えてくれる。
「一年の西野、お前はああはなるなよ」
西野梓は今年の一年生の中で一番人気があると言われている少年だ。生徒会で一緒に活動しているけれど、奥手の弘貴ですら目を奪われるほどの華がある。けれど、
「ああって」
その彼と自分との共通点が分からなくて聞き返せば、
「男相手に本気になって、挙句弄ばれるって事だよ」
泰隆は随分不機嫌らしかった、だから弘貴は一瞬自分と克彦の事がばれたのかと思う。
「何で、俺にそんな事言うんだよ」
声が震えないようにするのが精一杯だった。
「何でって、お前は俺に似ず可愛いからな。一応締めといたけど多いんだぞ、狙ってる奴」
「はぁ?」
「全く、人の大事な弟を玩具に使用なんて不逞奴らだ」
その顔を思い出しているのか泰隆は親の仇でも見るような目で宙を見ている。しかし弘貴にはその考えが杞憂だとしか思えなかった。自分は兄達のような人気者とは違う、恋をしたって真心をぶつけて相手に縋る事しかできないのだから。
でもそれでも本気で今恋をしている、相手は同性だ。だから、兄に同性愛を否定されたのがとても嫌な気分になった。
「でも、男同士でも本当の愛ってあるかもしれないじゃないか」
克彦にも気持ちがあるのだと信じたくて弘貴は反論する、すると、それをどう取ったのか泰隆は信じられないような事を言ってきた。
「男に興味があるなら、お前も店に連れて行ってやろうか」
「店?」
「ああゴールデンサンって言って、ゲイ専門の売春クラブがあるんだ。アヤならお前も気に入るだろう」
それは以前に新宿で助けてくれた少年の名前だった。そういえば同じ制服を着た顧客がいるといっていたような気がする。
「兄さん、その人のお客さんなの?」
あの見た目だけは自分とそう変わらない彼を兄が抱いているのかと思うと、妙に生々しかった。というより彼が体を売っているような会話は確かに目の前で行われていたけれど、今の今まで本当の意味では現実として実感がなかったのだと気がつく。
「金で割り切れる相手だからな」
そう言い切る姿が、とても醜く思えた。
体を繫ぐという事は、愛し合っているからこそできる行為だと信じたくて、
「そんなのおかしいよ」
それを金銭で売買したり、最初から遊びと割り切る泰隆の考えについていけない。すると、
「弘貴はそれでいいよ」
泰隆は何故か優しく笑って、弘貴の頭を小さく撫でる。
「はぐらかさないでよ」
弘貴は食い下がった、けれど兄はそれ以後その話題に乗ってくれる事はなくて。もやもやとした気持ちが胸にたまったまま、弘貴は引き下がるしかなかった。

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