会いたくて、

 

俺は何時にもなく張り切って体を動かした、準備運動にシャトルラン、シュート。頭の中を空っぽにしたくてがむしゃらに走り回る。
大学から始めた俺も恵まれた身長と体力のおかげで今やレギュラーだ。5対5のミニゲームでは一回目から駆りだされる。
ピィィィーーー。
笛が鳴って試合開始。ジャンプボールで勝ってボールをキープする。
マークされた、パス。しまった、甘い。
しかし幸運な事にカットに入ったと思った柿坂の手はボールには届かない。ボールを持ったオフェンスはフリーだ、3Pラインの手前。
シュート。
その時には俺はもうゴール下に居る、
やっぱり外した、リバウンド。
ダメだ、ボールははじかれて敵ゴールに向かう。フォーメーション通りの鮮やかの速攻が始まる。
「でぇぇい」
これでも元短距離選手だ、追いついてマーク。
パスでつながれたボールを取ったのは柿坂。ゴール下に人が集まっているのを見てシュートはするが。これも外れ。
今度はボールが外にでた。
俺たちの攻撃、速攻。
シュート。ゴール。ドリブル。カット。
体を極限まで行使して繰り返す。時にはフォーメーションで、時にはワンマンで。敵と味方としか居ない世界の攻防。
ピィィィーーー。
笛が鳴った時には、全員が汗まみれだった。
「22対30で白の勝ち。」
「「ありがとうございました」」
声を合わせて挨拶するまでが試合だ。
俺たちはベンチに戻ってマネージャーの作ってくれたお茶を飲む。上がった息と疲労が苦しいのに何処か心地よかった。空っぽで何も考えられなくなっている頭が楽だ。
俺は束の間の安らぎを享受した。

 

翌日、授業を終えた俺を大野が呼び止めた。
「先輩、ちょっといいですか」
いつになく思い詰めた顔、素面ではこいつの笑っていない顔は初めてかもしれない。
俺はドキドキしながら大野の言葉を待った。
「昨日、柿坂に言われました。身長のない奴にはバスケは無理だって、先輩もそう言ってたって。本当、ですか」
そうは思えない、でも。
俺が頷けば、こいつはもうバスケ部には来ないのだろうか。
そんな考えが頭をよぎって、俺は言ってしまった。
「本当、だ」
大きな目が、余計に見開かれた。
その顔は表情を失って、まるで精巧に出来た人形のようだ。それでも、大野は震える声で言葉を紡いだ。
「変な事、聞きに来て済みませんでした」
俯いて、踵を返す。
その姿を、俺は見つめる事しかできなかった。
良かったんだ、これで。
きっともう大野は部活へは来ない。
学年の違う人間同士、離れていればいい。
それでいい
それでいいんじゃないのか?


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