会いたくて、


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あくる月曜日、今日は俺たちの始業日だ。
と言っても先週あった入学式の新入生勧誘で皆会ってるから全然久しぶりでも何でもない。
「バスケ部、調子どう?」
「まぁまぁかな」
「テニスは?」
「うちは経験者が入りそうだぞ」
得意気に言うこいつはテニス部の部長。テニスはあんまりターゲットがかぶらない分話しやすい。バスケだと意外と陸上なんかと新入生の取り合いになる事が多いんだ。
そう言う俺も1年の時にはこの二つからの強く勧誘された。まぁ、俺の場合は高校で短距離をやってたから余計そうだったんだろうけど。
一二限は衛生学の授業、しのび来る眠気を何とかかわして昼休みはまた勧誘だ。
まだお堅い格好をしている新入生っぽい奴に声をかけて月水金の練習に誘う。20以上ある部活が80人ほどしか居ない男の新入生を取り合うのだから結構大変だ。
うちの大学自体は300人ほどの新入生が居るけれどこっちのキャンパスにいるのは薬学部の120人だけ、三分の一くらいは女だから結局凄い取り合いになる。せっかく入れても使い物にならないような奴もいるからな。
なんて贅沢を言っていると実は声をかける相手なんて限られてくる。
学食の方に大野が見えた、赤いジャージの、陸上部に捕まっているらしい。
困ったような顔をした大野に俺は思わず助けに入ろうとして、伸ばしかけた手を握り締める。うちの部活に誘わないと決めた時点で俺が口出しする権利はないんだ。
俺は無理矢理に大野を視界の外に追い出して勧誘に励んだ。が、どういう分けか随分1年っぽい奴が少なくなっている。
「どうだ、調子は」
野太い声に俺は振り返った、立っているのは現在のバスケ部主将、佐々木だ。
「一人見学に来てくれる事になった」
「やるな、でも昼はこんなもんかな」
時計の針はまだ12時45分、切り上げるにはちょっと早い。
「おいおい、忘れたのか、月曜の午後は一年体育だぜ」
佐々木の言葉に記憶がよみがえる、そう言えばそうだった。体育は少し離れた体育館で時間厳守なので早々に移動しなければならない。
「今日から絞ってかなきゃな。」
俺は言った。例年体育の初日はオリエンテーションとバスケだ。と言う事で俺たちにとってはここで見所のある一年生を絞る事になる。
「今年は取り敢えず柿坂が居るからな。」
柿坂は身長も申し分のない経験者だ。
「あいつ入るって?」
「ああ、もうやる気十分だぜ」
「じゃあ安心だな」
話ながら教室に戻る、三四限は病理学でそのまとめが5限の実習だ。
「初日からきつすぎだよな」
誰にともなく言うと周りから賛同の声、
そりゃあそうだ、病理学と言えば面倒なので有名だ。顕微鏡写真をひたすら見せられて、もう忘れてしまった正常の組織と比べる。人間の体だって言われてもここまで細かい話だとぴんと来ないんだから頭が混乱するだけだ。
案の定酷く長く感じる講義が終わって顕微鏡実習になだれ込んだ。
月曜から5限まで授業があるというのはやはり辛いものがある。その上それが病理組織の顕微鏡実習だというのだから本気で疲れる。
貴重なプレパラートだと言われても俺にはピンクのドット模様にしか見えないし、その点々の些細な差で何細胞かをわけるなんて面倒って言うか不可能だ。実際隣の席の奴は怒りながら教科書を写していた。
俺は流石にそこまでする勇気はなくて助手の先生に聞いて何とか理解に務める。一応色鉛筆でスケッチをして何とか実習を終えた。
実習室に人の姿は少なくて改めて自分の要領の悪さを呪う。
でも俺はこれだけやる必要があるんだよな、人より時間がかかってしまってもやり遂げられるならそれでいい。
俺はロッカーに荷物を取りに行った。朝置いておいた大野の服はまだそのまま、ここの場所が分からなかったのだろうか。直接教室に持っていけばよかった。
「ッて、違うだろ、俺」
もうすぐ成人する男相手に過保護すぎる自分の発想に、大きく頭を振って俺はバスケの道具だけをロッカーから取り出す。それなりによれてきたジャージと靴はみんなと作った思い出だ。
陸上が懐かしくない分けじゃないけど、今の俺にはみんなで作るゲームの方がおもしろい。一人じゃない楽しさは勉強の合間に楽しむにはちょうど良かった。
いつもなら部活にいくのはいいリフレッシュだ。
でも今日は、
顕微鏡を見過ぎた肩こりは俺の足を重くする、実習は嫌いじゃないけどこれは別だ、用意されたプレパラートを見るだけだから辛い体勢で教科書を読むのと変わらない。
その感覚に既視感を覚えた瞬間、俺の脳裏に流れたのは始めて大野と話したときのことだった。
そう言えばあの時もこんな感じだった。