会いたくて、

 

 

 

そして上級生だけが取り残された部屋、重い空気の中で
「説明してもらおうか」
自分でも怖いくらい冷たい声で俺は三人を睨みつける。当たり前だ、こいつらは大野を強姦しようとした。もし俺が間に合わなかったらと思うとゾッとする。
「大野の言ったとおりだよ」
依田は力なく言葉を吐き出した。
「あいつの才能に嫉妬して痛めつけようとした」
「それで強姦か、卑劣にも程がある」
暴力だって許されることではないが、強姦はそれ以上に心に傷を残す。許せるはずがなかった、すると、
「違うんだ」
始めて正面から俺の顔を見て、依田が弁解した。
「そんなつもりはなかった」
言い訳めいたその言葉に感情の制御が、出来なくなる。
「じゃあどうして!! 大野は悲鳴を上げてたんだぞ、いつだって冷静に耐えてたあいつがあんなに怯えて」
俺は依田の胸倉を掴み上げて、怒鳴りつけた。依田が俺の目を真直ぐ見て、口を開く
「ただあいつをしめてやろうって、思ってただけなんだ。それなのにあいつは何を言ってみ達観したみたいな顔で、殴っても顔をしかめただけで。『それで先輩の気がすむなら』とか言ってくるから」
クシャリと歪んだ顔は、二年以上付き合ってきて始めて見る。
「哀れまれてる気がしたんだ、余計悔しくて。でも遠藤が犯る言い出したとき大野の顔が変わって、本気で怯えてるって思った瞬間止まらなくて」
「そんなの理由になるか」
自己中心的な弁解が耐えられなくて、俺は依田の言葉を遮った。
苦しめるのが目的、それであんなに怯えさせて、
「男だろう、どうしてそんな事が出来るんだよ」
男が男に犯られるなんて屈辱にも程がある。大野の恐怖を考えると俺は我を忘れて拳を振るっていた。鈍い音がして、依田の頬には紅い跡その上をいつの間にか溢れ出した涙が静かに伝う。
「すまな、かった」
依田はそれだけ言ってそれっきりもう何も言わなかった。
「許されると、思うな」
言い残して、俺はその場を後にした。
これからこいつらがどうするかは俺が口出しすることじゃない。
それが分かっているのに、ひたすら罵倒を繰り返してしまう自分が想像できたから。



一人になると、少しだけ大野の気持ちが分かった気がした。

依田たちに言った言葉は俺にも言えてる。

相手を責めていると見せかけて本当に責めたいのは自分自身の方、
「思った以上に、辛いな」
大野は平然として、強がっていたけれど。襲われかけて、その上こんなに自分の醜い部分をさらけ出して、その胸のうちはどれほど揺らいでいたのだろう。
言葉にしてしまえば、自分の中にある自己否定からもう目を背けられなくなる。
ああ、俺は馬鹿だ。
理由をつけて、大野の為だなんていって、ずっと本当の事を大野に隠して。
親切ぶったけだもの、何をしようと罪滅ぼしにもならない。
「くそ」
でも今は、それをどうにかできる時ではない。俺も大野も落ち着かないと、それにこんな問題周囲に気取られでもしたら困るのは俺よりも大野の方だ。
ばれないように、とにかくこの遠征が終わるまでは誤魔化さないと。
俺ややるべき事を考える、佐々木への報告はもっと冷静にならないと無理だし。部屋で休もうにも俺の部屋には今依田たちが座っている。
仕方なしに取り合えず廊下を歩いていたら。
「今日はお疲れ様でした」
見慣れたマネージャーが明るい笑顔で話しかけてきた。そういえば今日は準決勝で健闘したんだった。その現実が酷く遠く感じられて。
「で、その今夜とかはどうなるんですか」
打ち上げ、そういえばまだメールを回してない
「七時半にロビーだ」
とにかく仕事をしよう、何も考えたくなかった。
そうして、ムキになって全員の部屋を訪ねて待ち合わせの時間を伝えることには、空はもう赤くなり始めていた。


いい加減佐々木の処に行かないと、打ち上げのレギュラー発表前には話をしたい。
重い足をその部屋に向けて
「依田」
見つけたのは、友達だった同級生。
「報告は、しておいた。じゃあな」
そんな事言うって事は、このまま帰るのか?
何の説明もない依田を、
「おい」
俺は慌てて呼び止めて、
「大丈夫だよ、打ち上げには出る、皆には変な気苦労はかけないよ」
振り向いた依田の顔には、自嘲の笑み。せっかくの打ち上げムードに水は差さないということか、けど、
「そう言う問題じゃないだろ」
釈然としない事が多すぎて、俺はそのわだかまりをぶつける、すると、
「この試合を最後に勉学の為に引退する、それが俺の結論だ」
依田はきっぱりと言い切った、それは敢えて表情を消そうとしているようなそんな作り顔で、こいつなりの懊悩を表していた。
でも、それでもこいつはひとつの決断を下したんだ。それだけはおなじ罪を犯した者として賞賛したいと思った。俺も、腹を括らないといけない。
「今まで、お疲れ様」
「ばぁか、そう言う台詞は打ち上げに取っとけ」
去り行く背中を俺は見送って、佐々木の部屋には入らないままロビーに向かった、あいつは自分で決着をつけたんだ、だったら俺が出る必要なんてない。


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