会いたくて、
依田達ははなんて言ってた。
まさか
脳裏に過ぎったのはありえないような想像、大野さえいなければ確かに去年決まったレギュラーもスタメンもそのまま続行だ。
いや、あいつらだってもうガキじゃない、そんな短絡的な事をするはずないじゃないか。
でも同室である柿坂があんなに探しても見つからない大野。
遠藤の部屋はたしか二階だった筈。
そう思った傍から俺は駆け出していた。
大野無事でいてくれ。
たどり着いた201号室、鍵はかかっていない。
開けてみる、誰もいない。
隣の部屋。
出てきた二年が遠藤の部屋が確かに今は無人の201である事を教えてくれた。
事に及ぶのに、そこを避けてるって事はあからさま過ぎる事は分かってるのか?
じゃあ何処だ。
俺は頭の中で俺と遠藤の他にレギュラー落ちしそうな奴を探す、木村は?
だめだ、あいつは遠藤と同室じゃないか。そこが留守なのはもう確認してる。
他には、
駄目だ、思いつかない
もしかしてスタメンの方か
大野が入ったらスタメンから外れる奴
実力的に考えて依田か、田中か俺。
でも田中は急用でもう名古屋に帰ったはずだし、
でも依田の部屋って言うのはつまり俺の部屋だ。
大野と仲のいい俺の部屋で行動を起こすことなんてあるだろうか。
それに依田は友達だ、卑怯なことをするなんて信じたくない。
祈るような気持ちで、それでも疑惑を捨てきれなくて、俺は自分の部屋に向かった。
依田と一緒に泊まっていた俺の部屋には鍵がかかっていた、一つしかないキーは締めない約束で置いていったんだからやっぱりおかしい。
入られたらまずい、そんな事がこの中で行われてるんだ。
大野、無事でいてくれ
俺は祈りをこめてインターフォンを押した。暫くまって聞こえてきたのは、
「今、取り込みなかなんけど」
嫌になるくらい冷静ないつも通りの依田のだみ声。
「堀口だけど」
締めるなっていっただろと怒れば、
「ああ、お前帰ってきたの、わりぃわりぃ」
予想外にあっさり扉は開かれて、俺は自分の考えが突飛な杞憂だったのだと安心した。
でも実際に部屋の中に入って見たものは、
ベッドの上で遠藤と水野に押さえつけられた半裸の大野。
ガチャリ
音がして俺の後ろで鍵が閉められる
「どういうことだ」
問いかけながら、俺を見る依田の無感動な目が怖いと思った。
「慰安会だよ、出番を失う哀れな先輩のな」
淡々とつむがれる非日常的な言葉、その間にも遠藤の手が大野のシャツを引き摺り下ろす
「やめろ、離せ」
敬語も何も消え果た、悲痛な叫びに俺は踏み込もうとした。しかし依田の腕がそれを阻む
「離せ」
くそ、なんて力だ、振りほどけない。俺は依田を睨む、けれどそこには罪の意識のカケラすら見つけられなくて、
「いいだろう、別にこのくらい」
「何言って」
信じられなかった。
いいも何もない、これは明らかに強姦だ。
俺に言う権利があるかは別として、あってはならない犯罪で、依田はもう加害者だ。
「大野はこれから沢山活躍するんだ」
薄く笑うその目は、正気を失いかけてる。くそ、手加減してる場合じゃない。
「そんなの関係ないだろ」
俺は怪我をさせても仕方ない覚悟で依田の蹴り上げて、その手を振り切った、そのまま狭い通路を抜けて部屋に入ろうとする。が、
「そうすか、先輩もスタメン危ないんでしょ」
獲物の腕をシャツで縛って余裕の出てきたエンドウが暗い笑顔で立ちはだかってきた。奥では大野が最後の砦であるズボンを守ろうと必死で水野を蹴りつけているのが見える。
「生意気なんですよ、一年の癖に。堀口先輩もそう思うでしょう?」
近い立場の俺に、遠藤が同意を求めるようにそう言って手を差し伸べてくる。その言葉に
「先輩ッ」
ようやくは言ってきたのが俺だと気付いた大野が声を上げる。
こいつのこんなに余裕のない声なんて始めてだ、くそっ、どうして俺はこんなになるまでここにたどり着けなかったんだよ。
「遠藤、そこをどけ」
俺はきっぱりと言い切ったどんな事情があったってこんな暴力に加担する気はない。けれど、
「今更いい子ぶるんですか、助けを求められたから」
その気持ちが伝わらない、どうして分からないんだよ自分がしてることが間違ってるって。
「水野、大野を放すんだ
微かな希望を込めてそう叫ぶ、けれど素直だと思っていた後輩は言うことを聞かない。万マークが得意な遠藤を俺は中々突破できなくて、そうしている間にもベッドの方ではとうとう大野の足も押さえ込まれた。そして、
「大野、いいか。お前の大好きな堀口先輩だって結局は同じなんだよ。ちょっとバスケが出来るからって生意気なお前にムカついて、お前なんていなければいいと思ってるんだよ」
追い討ちをかけるような水野の声。
拳が震えた。
これ以上大野を傷つけるな。
ああ、もう暴力沙汰になったって構うもんか、こうなったら実力行使だ。俺は拳を振り上げた。その、瞬間。
「学年があがってやっとレギュラーだ。これからは俺も試合に出られる。そう思ってたのに、なんだよルーキーって。部長は去年俺にレギュラーを約束してくれたのに、こいつを使う、一年の癖に」
静かな声が、部屋に響いた。