会いたくて、
大会はトーナメント戦で行われる。今年の主幹は岐阜の大学だから試合は岐阜市内の二つの体育施設に分かれて進行していった。
五日間に及ぶ日程は滞りなく進んで四日目の今日は準決勝、俺達は十時に始まる第一試合だ。
「メンバーチェンジ、六番水野に変わって番外大野」
前半ラスト審判の声とともに選手が交代する。俺達の紫のユニフォームに、白いゼッケンをつけた尚絅のオレンジ色が混ざった。
リードを取っている敵方に、それでも緊張が走る。この数日間要所要所で登場した大野の実力は既に周りにも知れ渡っているんだ。
敵のスローインから再開。
敵七番の近年一とも言われる弾丸ドリブルが炸裂する。マークに付いた佐々木が抜かれ。
え、
「康弘ッ」
瞬間だった。ボールを奪った大野がゴール下の田中に向かってパスを放つ。
掛け声はあっても敵はどれが康弘なんだか分からなくて手前に居た国府田にチェック。見た目よりずっと伸びたパスを受け取って田中のゴール下シュートが決まった。
見たか、これがうちの考えた惑乱作戦だ。先輩後輩なくコートの中では下の名前で呼び捨てる、そうすれば絶対誰が誰だか分からない。
なんて元々これを言いだしたのは今はコートにいない依田で。事実半分暗号みたいにして相手を混乱させてきた。
確かに一年が三年を呼び捨てるなんて普通考えられないからな。でも大体一々田中先輩とか長々と言ってたら間に合わないとも思う。
そんな作戦と大野のゲームメイクで試合の流れは完全にうちに来た。しかし敵もさるものですぐに大野の弱点に気が付く。
ゴールしたがからっきし弱いんだ。
スクリーンアウトで負けて滞空で負ける。
いや、そう言うところを俺達でかいのがやるべきなんだけど練習不足のせいかどうにもうまく連携がとれない。
あ、またリバウンドを取られた。
ガコン
敵のゴール音って何でこんなに胸が痛い気持ちになるんだろう。
「俺、スローイン行きます」
大野が今回始めてのスローインに立つ、
ってお前以外なんて簡単にドリブルカットされるぞ。
はらはらしながら大野を見つめていると手に力をこめるのが分かった、視線の先にはちょっと遠いけど佐々木がマークい1枚でボールを待ってる。
大野の手から、ボールが離れた。けれど、
「義巳」
え、俺?
大野の口から出たのは佐々木ではなく俺の名前で、構えているとボールは素直に俺のところに来る。ノールックかよ。敵の意識は完全に佐々木にいっていたからマークを抜くのは難しくない。
脚だけは早い俺は早々にゴール下に着いて。
「よっし」
審判が特典を告げる笛を鳴らす。
くー、この瞬間がたまらないんだ。
俺はパスをくれた大野と一度手を打ち合って、すぐに敵のマークに戻る。
試合はそのまま一進一退の攻防が続いた。
試合結果は
「79対87で赤の勝ち」
審判の声に皆で揃って礼をする。
正直、去年の優勝校相手に正直ここまで食い下がれるとは思わなかった。
負けて悔しいけど同時に誇らしい。
試合後ホテルのロビーで行う反省会でも、
「負けはしたけど大きな成果があったと思う、これからも頑張ろう」
佐々木がそんな風にまとめて俺としては今後にかける期待で一杯だった。
「で、今後の予定なんだがまだ午前中だし予定を繰り上げて今夜打ち上げをやろうと思う。どうせお前らだって岐阜じゃ観光したいところもないだろう」
異議はなかった、そりゃそうだ。一泊すればその分金がかかる、遠征が長引くと懐具合が厳しいのは皆同じだ。
「じゃあ詳しいことは追って連絡する、解散」
その声に、俺たちは同室の人間同士ばらばらに動き始める。今回はシングルの数が揃わなくて二人部屋のところが多いんだ。
エレベータに行かないやつは売店ウオッチングか、居るんだよな、こういうの好きな奴って。
いきなり外に出掛けていく奴もいる、あれは水野と依田か、タフだなぁ。ってそうか試合に出てない奴も結構いるんだ。
俺も帰ろうとしたら、佐々木に呼び止められた。
「堀口」
「なんだ?」
「すまんが打ち上げの予約をやってもらって言いか、俺はちょっとやる事があるから」
まぁ部長は何かと忙しいからな
「分かった人数は十九でいいんだな」
「ああ」
と、言うわけで俺は走り回ることになる。何しろ土地勘がないからフロントに聞いて店を探して、四苦八苦しながら予約を済ます。
けどここが問題なんだ人数は何とかならないこともないんだが店の雰囲気とか、酔った時の為に徒歩で行ける距離じゃないとか言っているうちに他の大学にとられて、店が埋まってしまって。結局二時間近くかかってしまった。
主幹学年も楽じゃない。
疲れながら廊下を歩いていたら柿坂に呼び止められた。
「先輩、大野見ませんでしたか」
「いや、見てないが」
「じゃいいです」
そのまま踵を返す、ただならない様子に。
「なにかあった」
思わず、腕を掴んでで問いただす、けれど柿坂は、
「いえ、先輩の手を煩わせるほどのことじゃないんで」
逃げた。
つまり俺には言いにくいことだ。用件の検討はついた毎年この日には新レギュラーの内定が下る。大野はきっと新しいレギュラーに選ばれたんだろう。
俺はまだ何も言われていないから分からない、それが少し悔しくて。でもあいつに活躍の場が出来たんだとしたらそれはそれで純粋に嬉しいと思った。
初めてレギュラーだと言われた時、俺は凄く嬉しかったし三月に引退した先輩に代わって入った遠藤のはしゃぎ方も記憶に新しい。
大野は一体どんな顔をしたのだろう。
どうしてもそれを見たくて、大野に会いたくなった、どこに行けば会えるんだっけ。