会いたくて、

 

 

とはいえ、俺も一応主幹学年だ。いつまでも楽しくバスケだけをしているわけには行かない。
「堀口、ちょっといいか」
佐々木に呼ばれて、俺は後ろ髪を引かれる思いで体育館の入口に向かう。
「どうかしたのか」
「いや、このフォーメーションなんだけど、どう思う」
と、示されたのはマグネット式のボード。バスケコートが書いてあって、そこにプレイヤーに見立てた磁石をおいて戦略を練る道具だ。
「2-3の速攻、今まであんまりやったことなかったよな」
「ああ、でも大野のシュート力があったら可能じゃないか、三点取れればかなり大きいし」
成程、佐々木の言うとおりだ。
今まで大野みたいなタイプはうちの部にいた事がなかったから使った事がなかったけど、これをやればかなり意表をつける、でも。
「3pとみせかけた囮からの作戦って言うのはどうだ、それなら今までのパターンも活かせるし」
俺達チームメイトだってまだ全然慣れてない、うまく対応できる自信がなかった。
とはいえ飛躍的に幅の広がった戦略やフォーメーションに、ここ数日俺達はずっと夢中だ。
これがまた実際に良くきくんだ。まだ対外試合では試していないけど、紅白戦では大野の居るチームはいつも圧勝。
どうしてこいつがバスケを続けないなんて言ってたのか今となっては不思議でしょうがない。
そのくらい楽しい。普段からは考えられない好戦的なあいつの顔も、繰り出すボールのやり取りも。
それは他の奴らも同じみたいで、なんだか部活内に前より活気が出てきた気がする。現金だけど、やっぱり前より勝てるチームになったって言うのも大きいんだろうな。
そしてその認識は俺だけのものじゃなかったらしい。
「大野、高校のユニフォームとかあるか」
練習後、佐々木は満面の笑みで尋ねる。
「はい、ありますけど」
「来週の大会の時もってこいな」
それはかなり、珍しいことではあったけど、大きな意味を持っていた。だからこそ、他の奴も顔こそ向けないものの、全身で佐々木たちの会話に意識を向けているのが伝わってくる。
そう、春の大会は一年生だけ当日参加が可能なんだ、ユニフォームも正規のものじゃなくていい。
まぁ要するに補欠を余分に置けるようになるって言うことなんだけど、うちの場合はこの大会の打ち上げで当面のレギュラーとスタメンを発表するからこれに出るって事は大きい。うまく行けば一年生レギュラーだって夢じゃないだ。補欠からすら漏れてる二年生にしてみれば心中穏やかではない。けれど、
「分かりました」
そんな事情は露とも知らない大野は簡単に引き受けてしまう。
ああ、くそ、こういうときこそ空気を読んでくれよ。
嘘でもいいから喜んだ振りをしてくれと、俺は勝手に保護者みたいに慌ててしまう。
これが、そう、それだけで済めばよかったんだ、うん。
「やっぱ何より練習っすね」
翌日、大野のいない部活で、急に練習熱心になった水野が周りに対してこれ見よがしに言ってきた。
「一緒に練習するのはチームワークの基本だな」
と、こちらは依田。
それが、誰の事を非難しているのかは考えるまでもなかった。
大野、どうしてよりによって昨日の今日で急に部活に来なくなるんだよ。確かに俺は無理をしてまで頑張る必要はないって言ったけど、今は試合前なんだぞ。
大野の出席率が悪いのは今に始まったことじゃないけど、レギュラー争いに関わってるとなると話は別だ。
二人の言い分も分からないではない。
「堀口も、そう思うだろ」
そう言われてしまえば、
「ああ」
と、答えるしかない。俺の答えに依田は満足したように笑って、それからまたシュートの練習を始める。
こいつ、前はこんなに大野のこと目の仇にしてなかったよな?
「何かあったのか」
「別に」
そう答えるけれど、こいつがこんな意地を張ったような答え方をする時点でおかしい。
「柿坂、ちょっといいか」
なんだか妙に気になって、俺はとりあえず柿坂を呼んでみた。
羨ましいことに部活中は大抵大野と一緒にいるこいつなら何かを知っているかもしれない。けれど、
「依田先輩と・・・ですか」
先輩の質問には絶対答える体育会系の柿坂は頭を掻きながらうなって。
「いや、何もないっすよ。アドバイスとかそう言う余計なことも言ってないはずですし」
「アドバイス・・・って一年生に言ってるあれか」
「はい、依田先輩にも聞かれたんですけど、自分に言えることはないって」
「あいつなら上級生にも意見しそうなのにな」
意外と強気でゆるぎない大野の態度を思い出しながら、俺は笑う。
「たしかに、水野先輩には色々アドバイスしてました」
その時の様子を、柿坂は詳しく教えてくれる。
う、そのアドバイス、俺の耳にも結構痛いぞ。
でもちょっと驚いた、依田がわざわざ下級生にそんな事を聞きに行くなんて。でも当然か、あいつはああ見えて実はそれが原因で彼女に振られるくらいのバスケ馬鹿なんだ。
女好きの癖にバスケはもっと好き。
そう言うところは俺も凄く付き合いやすくて、だから佐々木が部長になってからは一緒に組むことも多くなった。
そんな依田から何かを言われたのか
「何とかならないか」
佐々木も俺にそんな風に言ってくる、全くどうして大野の事は俺に言えば何とかなるなんて思われてるんだか。俺だってあいつに厳しい事を言って嫌われるのなんてごめんなのに、それに、
「俺はいえないぞ、大野が入るときに休んでも平気だって言い切ったし」
一度言った事を翻すことだけはしたくない。
でも、態度が悪いから試合に出さないなんて諦めるには魅力的過ぎるプレイヤーなのだ。だからその問題は有耶無耶のまま、俺達は大会の日を迎えることになった。


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