会いたくて、

 

 

そして土曜日、予約の店は大通りに面した所にあった。広い道路にポツポツと灯るのは街灯ばかり、都会を模しているようでも商店は八時には閉店してしまうから明かりの数は多くない。
部活で行く居酒屋とは少し趣の違うその店の前で、俺は言葉を失っていた。
「由美子」
由美子は驚かなかった、それどころか俺を認めると微笑んで
「久しぶり」
ゆっくりと唇の端をあげて見せる笑顔は相変わらず艶っぽくて、最後に会ったときから少しも変わっていない。完璧な化粧も洒落た服もいっそう磨きがかかっていて、誰もが認める美女と言う奴だ。
そんな事を妙に冷静に観察していた、俺の中にかつての強い憤りはもうない。
「凄い、偶然だな」
そういえば付き合うきっかけになったのもこんな合コンだったっけ。そんな事をぼんやり考えていると幹事の依田に見つかってしまった。
「おい、知り合いか」
興味津々の聞き方、まさか昔の彼女だとは言いづらくて、
「前にもこういうとこで会ったんだ」
苦笑混じりにそれだけ言った。
でもしっかり由美子が先に座るのを確認して、遠い場所に座ってるんだからバレバレか。
大野は、と見れば丁度反対側だ、今日は話せそうにないな。
「身長いくつ?」
「スポーツマンっぽいですね、何かやってるんですか」
 乾杯が終わるとすぐに両隣の女の子達が話しかけてくる。そのどこかコケティッシュな上目遣いが少し苦手で、
 まずい、疲れてきた。
 二つ隣の席に座った依田は俺にさっさとツーショットになる用に目で必死に訴えてきている。とはいえその気もないのに相手を誘えるはずもなかったから、俺は気まずいままその席に座り続けた。
 これだから合コンって言うのは苦手なんだ、そういえばだから普段は誘われてもあんまり行かないんだった。
 でも今日は全然ましなほうだった。
 俺よりももっと激しい質問攻めにあっている奴がいるから。
大野。
普段よりちょっと洒落たブルーのジャケットに身を包んだ大野は誰よりも目を引いていた。身長はバスケをするには低くても普通に言えばそう小さいわけではないし、何よりも柔らかな雰囲気と綺麗な顔は今風だ。しかも意外なことに、こういう場に慣れているらしくテーブルには和やかな笑いが響いていた。
自分をアピールするのに女の子達をうまくまとめていて、とにかく如才ない。
そんな様子を感心してみていると、
「それでね、堀口さん聞いてる?
甘ったるい女の声が俺の注意を促した、こんな場所で男を見るなんて確かに俺の方に非がある。自分から言い出したことだし、仕方がないか、俺はなれない愛想笑いで粛々と彼女達の話を聞いていた。ただ惰性で流れていく時間。
「ちょっといいかしら」
由美子が俺に声をかけてきたのはそんな時だった。俺と話していた女の子は少し嫌そうな顔をしたけれど由美子の迫力には勝てなかったらしい、あっさりと俺は彼女と2人きりになる。
テラスに出ると、春の夜風が心地よかった。
新鮮な空気を吸うと、ようやくあの場所と化粧の匂いに辟易していた自分に気が付いた。でも問題はまだ目の前に転がってる。
「実はね、今日は義巳が来るっていうから来たの、あなたみたいな人がこんなところにいるって事は今フリーなんでしょ」
 確かに、もし恋人がいれば俺は絶対合コンになんて来ない。完全に読まれてる。
 でもちょっと待て、それを確認するって言うことはもしかして。
急に鼓動が早くなる、由美子を本気で愛していたのは一年も前のことではない。でも、
「ごめん、お前とはもう終わったから」
 全部過去のことだった、今はもうどうしてあんなに由美子が好きだったのかも分からない。とはいえ女の子の告白を断るのは物凄く申し訳ない、自然と眉根が寄ってしまった。そんな俺に、
「私もよ」
 由美子はそういって声を立てて笑う。歯が見えてちょっと田舎くさいその笑顔は付き合っているときには見たこともない一面だった。
「ならなんで、そんな事聞くんだよ」
自分の勘違いが恥ずかしくて、憮然とした面持ちで尋ねれば、
「紹介したい子がいるのよ」
はぁ?
「しっかりした綺麗な子よ、いつでも男と対等でいたいような」
「なんで」
話の流れが分からない、どうして急に俺に白羽の矢が立つんだ? 
しかし由美子は俺の質問には答えずに携帯を取り出すと勝手に話を進めてしまう。
「ほら、この子」
その子は確かに可愛かった、由美子のような女らしい完璧さじゃなくて何もしない素材のままが綺麗な子。
「どうして俺なんだ」
「あなたの話をしたらね、興味をもたれちゃったの」
「どんな話をしたんだよ」
「ちゃんと女の子を甘やかしてくれない男」
「なんだよ、それ」
それじゃあまるで俺が冷血漢みたいじゃないか
「だって義巳ってそうでしょ、付き合う相手に対等を求める」
それは当たり前だ、だって俺は保護者じゃないんだ、一から十まで面倒を見る事はないだろう。しかしそれが一般的ではないのだということを俺は彼女から習った。
価値観が違ってそれを理解できなくて穴を埋めるほどには相手を愛していなかった。
今思えば彼女が俺を振ったのは当然の選択だったんだろう。
「とりあえず会って見るだけでもどう? 私が言うのもなんだけどお似合いよ」
 由美子が赤外線通信の準備をしながら自信ありげにそう言った。


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