会いたくて、

 

 

 その次の週末。
「大野を連れて来い?」
あんまりにも唐突な言葉に、俺はつい掠れた声になって聞き返してしまっていた。
相手はこの間合コンのセッティングをして欲しいと頼んだ同級生の依田だ。けれど、
「それなら自分で誘えばいいじゃないか」
 依田だって同じバスケ部のレギュラーなんだから大野とは何度か話してるはずだ。それなのに、
「俺が言ったんじゃ断られるに決まってる」
 うぅ、そんな事ないと言い切れたらどれだけ良かっただろう。人当たりもいい視礼儀正しい大野は、どういうわけか遊びの誘いにだけは中々乗らないのだ。
 それが分かってるからこそ、俺だって物凄く、誘いにくい。
「言っとくけどお前の為なんだからな」
 言い渋る俺に、依田は少し苛立っているようだった。
 確か合コンしたいって頼んだのは俺の方なんだから、そのくらいの努力はするべきなのかもしれないけど。でももともとそれは大野の事を忘れたいからであって、そこに大野が繰るんじゃ本末転倒だ。
「どうしても。なのか?」
 気分を重たくしながら上目遣いに聞いてみるけれど、
「ああ、女の子の一人がどうしてもあいつと話してみたいって聞かないんだ」
大野を誘わなきゃいけないくらいなら、合コンなんてしなくていい。そう言ってしまえばどれだけ楽だろう、でも、
「ちょっと面倒かもしれないけど頼むな。その代わり今回はレベル高いぞ。お前が来るってだけでもかなり厳選できてるし」
本気で嬉しそうなこいつに、そんな事言えるわけがない。
「大野が頷くとは限らないんだぞ」
仕方なしにしぶしぶそう言ったって言うのに、
「だからそこを何とかするのが先輩だろ」
と、簡単に言ってくれる。でも、
「難しいと思うぞ。あいつ、そう言うのあんまり興味ないみたいだし」
「・・・そう・・・・・・なのか」
ん? なんでそんなに急にはぎれが悪くなるんだ、依田。
直感した、こいつ、何か隠してる。
「で、その女の子以外にどういう裏があるんだ?」
俺は穏便に聞いてやった、目だけはしっかり逸らさずに。依田が一歩下がる、どちらかと言うと鋭い目つきの俺はこういう顔をすると迫力がある。とはいえ、図体が大きい男同士はたから見たら結構異様な光景だ。
「いや、な。その、あの」
「怒らないからはっきり言ってみろ」
 怯えすぎたんなら笑顔で懐柔だ、出来るだけいつもの調子で言えばしっかりだまされてくれて依田は口を割った。
「ほら、大野ってあの顔だろ、女子とかの間で凄い人気なんだよ。しかも現在フリー。それなのに女子の誘いにも合コンも乗ってこない」
初めて聞く大野の噂は、けれど確かにあいつらしかった。でも恋人は居ないのか、想像したこともなかったけどそう聞くと嬉しい。
違う、だから今はそう言う話をしてるんじゃなくて、
「で、それがたんだ」
俺は内心を悟らせないように何とかそう問い返した。
「不思議だろ?」
「そりゃあ、まぁ」
「今結構話題になってるんだ。でな、もし俺が大野を引っ張り出すのに成功したら」
それが交換条件か、
「その子がまたいい合コン開いてくれるってか」
その顔、ビンゴだな。
「断る」
 大野をそんな賭けの対称にするなんて出来るわけがなかった。
「なんでだよ、勿論その合コンにもお前を呼ぶぞ」
「俺は後輩に無理強いする気はないんだ」
「大丈夫だって、それでうちの部にも入ったんだろ」
 反論は出来ない。
 確かに、最初は乗り気じゃなかったあいつを無理やり口説き落としたのは俺だ。でも、
「別にあいつは前からバスケが好きだったんだよ」
「でも始めは断ってる感じだったよな」
う、確かにあいつはもうやらないつもりだった。
「それをお前が言ったらオッケーって事はよっぽどお前に恩でも感じてるんだろ」
 依田はそう言うけれど、
恩、そんなこと、した覚えはなかった。
「そんなんじゃねぇ」
「じゃあ、何か、純粋な好意か」
 何言ってるんだよ、お互い男同士だぞ、って言うか男同士の友情も確かに好意は好意だよな。
でもこちらの事情が事情名だけに勘違いしてしまいそうな。
駄目だ。
そう言うおいしい話は現実には転がっていないもののと決まってる。男が男を好きになるなんて、普通はありえない。
ましてここに一人いるんだからその相手もなんて都合のいい展開があるわけない。
「分かったよ、話すだけ話してみる」
これ以上会話を続けたくなくて俺はとうとう折れた。
胸に秘めておくよりもさっさと断られる方が断然楽だからとその日のうちに部活で大野を捕まえて、話せば、
「え、合コンですか」
ああ、固まってる。
そりゃあそうだろう、先輩にいきなりそんな半紙を振られたら普通は驚く。
「ああ、なんかお前を連れて来いってうるさくてさ」
女の子のリクエストだなんていうと絶対子引くような気がしてたから一応誰がとは言わずに提案してみる。
「今度の土曜日ですよね」
目を閉じるのは何かを考える時のこいつの癖
でも面と向かって目を閉じてしかも話していたときのまま唇は俺に向いていて、それって、
すまん、大野。邪まな先輩を許してくれ、
「予定があるならいいんだぞ。俺からそいつに断っておくから」
親切ごかしてそう言うのも、実は大野が女の子に囲まれているのを見たくないからなのかもしれない。いつから俺はこんな狭量な男になってしまったんだ。
「でも俺が行かないと、先輩、困りますよね」
懊悩するおれの顔を読み違えたのか済まなさそうな大野の声、でも真実がばれたら余計にまずいから肯定すれば、
「じゃあいいです、俺、行きますよ、丁度今余裕がありますし」
何の余裕だろう。
相変わらず分からない。
もしかして彼女がいないからてことか?
そうだよなこいつだって男なんだ、フリーだったら彼女の一人も欲しいだろう。
俺は後悔しながら大野と別れた、実らない恋だからっていって相手が他の子とくっつく機会を作るなんて
俺って本気で馬鹿かもしれない
でもそれは正解かもいしれなかった、だって他人の者だってわかれば失恋だってはっきりして吹っ切れるかもしれない。
俺自身、予定通り彼女を探すのもいいかもな。
もうそんな事は不可能だって事実に蓋をして、俺はポジティブに自分を偽った


||PREV||NEXT||