会いたくて、

 

 

 翌日から、大野はまた部活にも顔を出すようになった。まるで数日間の空白なんてなかったかのように当たり前にそこに居て、そしてあの日の出来事がうそみたいに変わらず俺と接してくる。
 相変わらず全体に愛想のない奴だったが礼儀正しくて、なんでもそつなくこなして。
「優等生だよな、お前の後輩」
 肩を組むみたいにのしかかりながらそう言ってきたのは佐々木だ。
「いい奴だろ」
 大野が褒められた事が自分のことのように嬉しくて、俺はドンと胸を張る。しかし、
「大丈夫か、堀口。今の、嫌味だぞ」
 と、返ってきたのは本気で心配そうな顔。
 けれど俺には言ってる意味がぜんぜん分からない。
「何か、問題でもあるのか?」
 仕方なしに尋ねれば、
「人間味が無い」
 即答だった。
「そうか? 喜怒哀楽もあるし、あれで抜けてるところも・・・」
「そうじゃなくて、・・・見ろよ」
 促されてみれば大野は一人でストレッチをしている、そこから少し離れたところでは練習にばてた一年生達が固まって雑談をしていた。
 浮いている、と言いたいのだろうか、でも。
「まだ入ったばっかりなんだし、しょうなないんじゃないか」
「違う、そうじゃないんだよ」
 佐々木は何故か妙にり気絶してきた、少しだけ嫌な予感がする。それでもつい、
「言いたい事があるならはっきり言えよ」
 促してしまえば、
「だから、あいつはなんだか欠点がないんだよ、それが面白くない。見てるといじりたくなるんだよ、だから」
 物凄く、いつものパターンだった。
「あいつら、未成年だぞ」
 一応そう忠告するけれど、
「いーや、大学生はもう大人だ。と言うわけで全員注目。いいか、今夜は明けておけよ」
 あーまた、佐々木の悪い癖が始まった。
 こうなってしまったらもう手が付けられない、俺には後輩たちが病院送りにだけはならないように気をつけるくらいの今年かできない。案の定、
「飲んでるか、柿坂。ビールは水だぞ」
「うぷ、せ、先輩。俺、これで三杯目なんですけど」
 部活が終わってバスケ部御用達の居酒屋に行くと開始早々絡まれた柿坂がかなりやばいことになってた。
「おい」
 俺は思わず止めに入ろうとして、
「先輩、柿坂ばっかりずるいですよ」
 そんな声に先を越される。
 ッて、おい、待て。
「大野」
 声の主は新入生勧誘の時に思いっきり酒の所為で過ちを犯すことになってしまった大野だ。あの夜の大野はやばかった、なんていうか目がとろんとしてきて無防備でどこか扇情的で。
「では、いただきます」
「駄目だ」
 大野に酒を飲ませるわけには行かなかった、本人は覚えていなくてもあんな過ち二度とあってはならない。
 それに、あの時は偶然俺が家に引き取ったけれど、もしあれが他の奴だったら。
 他の奴が大野とあんなことになってたかもしれない、これからなるのかもしれないとしたら。俺はいてもたってもいられない、大野に酒を飲ませるわけには行かない。
 強引にジョッキを奪って、一気に苦い液体を飲み干した。
 いい加減の見慣れてきたビールは、飲んでいるときはキーンと冷えてうまいが思いっきり腹にたまる。
「堀口、てめぇ何しやがる」
 邪魔をされた佐々木が、殺気だった目で俺のほうを睨みつけてくる。
「ものには限度があるだろ」
 俺は、そう言うけれど、
「大野は分かってくれるよな」
 俺が厳しい顔をしたとたんコロッと態度を買えて佐々木は大野に絡み始めた。
「はい、酒なら俺がいただきますから」
 あーー、もう、どうしてお前はこんなときばっかり愛想がいいんだよ。俺は大野の飲酒を断固阻止しようとする、けれど。
「おおい、堀口、いくら後輩だからって贔屓はよくないぞー」
 飲み放題なのをいいことに、既に完全に出来上がっている四年生に、俺は思いっきりつかまってしまう。
 くそぉ、離せ、俺は、止めないと。
 アルコールの回り始めた頭で思わず先輩を睨み返してしまうけれど、
「すみません、堀口先輩、柿坂君が」
 マネージャーの声に振り向けば、駆けつけ三杯なんて言われて食事にありつく前にビール攻撃を食らった柿坂がぐったりと横になっている。
 そう言う事は二年生に言えよ。
 と、一瞬思うけれど、普段から潰れた奴の介抱をしてるからか。
 確かに柿坂も心配だし、こういう事はなれている人間のほうが向いている。
「ちょっと外の空気を吸わせてくるよ」
 仕方なしにそう言って、俺は柿坂を担ぎながら店の外に出た。
 暦の上では初夏になりかけているせいか,外は心地よい程度の気温だった。大通りに面しているせいか、人通りもまだあって酔いつぶれた俺達に呆れたような視線が投げかけられる。
「よく頑張ったな」
 体育会系のノリで先輩の酒を断らなかった柿坂をそう労えば。
「とーへんれす」
 ろれつの回らない声が返ってきた。これは相当やばいな、家に帰したほうがいいかもしれない。
 俺はそれを言いに一度店の中に戻って、
「おい」
 思いっきり見つけてしまった、空の一升瓶。勿論会ったのは大野と佐々木の目の前だ。
「おう、堀口。大野は凄いぞ」
 佐々木は上機嫌でそう言うけれど、これ以上この場所に大野を残しておくわけには行かなかった。
「柿坂無理そうだから家まで送っていく、大野、悪いけど案内してもらえるか」
 俺は出来る限り冷静な声を作って佐々木にそう掛け合った。
「なんだとぉ、夜はまだこれからだぞ」
 佐々木は勿論反対したけれど、
「佐々木先輩、こっちにお酒があるんですけど、飲みませんか」
 事態を察したマネージャーの助け舟で一瞬注意がそれた。
「今だ」
 俺は大野の手を引いて、その場を後にした。


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