会いたくて、
次の練習日、大野は練習に来なかった。
まだ入部前なんだから練習に参加する義務はないけど、あれだけのプレイをもせられた後だ。
俺よりも他の奴らが諦めるはずはない。
柿坂によると『忙しいから今日は無理』らしいが、俺が誘えば何とかなるだろうとなぜか期待をこめた眼差しで佐々木に送り出された。
ッたくいい加減にしてくれよな。
無理強いして嫌われるのが、誰よりも怖い相手だって言うのに・・・。
実際、正門のところでようやく捕まえた大野は可哀想なくらいに平謝りで、胸が痛い。
どうしてこいつはこんなに俺に気を使うんだろう。同じ口腔出身というだけではどうも説明できない気がする。
でも、『後輩』として慕ってくれている以上俺だってそれに応えないわけには行かない。
地元を離れて暇な週末には部活のバーベキューに誘ったり、練習日にはワンオンワンでバスケをしたりと目一杯可愛がった。
年下とは思えないほど話題に豊富な大野と一緒にいるのは他のしくて。学校のことやバスケの事を話して、そろそろ友達にも近いような関係になれたと思う。
それなのに、毎晩のように出会ってしまうのだ。
テープならすり切れてしまっていただろうほどにあの夜は俺の中で再生される。
女の柔らかい体より、あの肉の薄い身体は俺を虜にしている。
その妄想を振り払おうとアダルトビデオに手を出した、友人には合コンに誘ってくれるように頼んだ。
テレビ画面に浮かぶ眩しい肢体に、欲情しない分けじゃなかくて、来週には会えるという女子大生に期待がない分けじゃない。
それでも、夢にでてくるのは何時だって平らな体の大野なのだ。
夜な夜な勝手な妄想の中で男を犯しながら、今まで通りの生活を送る自分はどうしようもない人間だった。
はぁぁー、一体どうすればいいんだろう。
今日も何度目になるか分からない溜息を付いていると、
「どうしたんだ? 溜息なんてついて、」
宮下が心配そうな顔で覗き込んできた、本当に気配がないと言うか神出鬼没な奴だ。
「俺にだって悩みくらいあるんだよ」
今こいつとはなすと疲れそうだと気乗りしない顔で見上げると、宮下は、意地の悪い笑顔をうかげて。
「さては、意中の彼に突っ走って玉砕か?」
最近じゃないが当たってる、だから困ってるんだよ。
「おま、なんで」
恋していると言う事はばれていたが相手が男だなんて言った覚えはない。
「言っただろ、目が追ってるって、」
ッて言う事は、ばれてたのか、あの時から。でも、
「気持ち悪くないのか?」
宮下の態度は以前と何一つ変わっていない、俺ならきっと無理だ。だからが不思議で、信じられなくて目を見開けば。
「俺もお仲間だからな」
さらりと言ってのける。
「全然気付かなかった」
そろそろ付き合いも3年目だって言うのに。確かに言われてみればこいつはコンパだのAV会に来た事はなかった。個人的にはパソコン部だから2次元にしか興味がないと解釈してたんだ。
「わざわざ言う事じゃないしな」
顔色一つ変えないんだからこいつも随分悟ってるんだろう。
「それよりお前の事だ、何があった」
その横顔が、今まで見た誰よりも頼もしく見える。
「相談に、乗ってくれるのか?」
「仕方ないだろ、お前がそんなんじゃ試験前にノートたかれない。ほら、とにかく話して見ろ。」
あーお前ってそう言う奴だよ。それでも今の俺にとっては強力な助っ人だ。
「じつは・・・」
俺は今の状況を話した、さすがに初日にやっちまったことはぼかしたが後はそのまんま。
「微妙だな」
宮下が言った、そう、その通りだ。
「告白しても部活が残る、だから下手には動けないし」
「いや、そうじゃなくて、相手はあの大野なんだろ。」
「あの、」
「一部じゃ結構有名だぜ。」
「どうしてだよ。」
そりゃあ確かに年の割に落ち着いてて包容力って言うかそう言うのはあると思うけど。
「弁論部な、あいつに負けたらしい」
「はぁ?」
「ほら、勧誘がしつこいって前に話しただろ。あんまりしつこいから大野が勝負を挑んだんだ。自分に勝てたら入部するから自分が勝ったら勧誘しないってな。そう言いきる時点で前代未聞だって言うのに、あいつ、勝っちまいやがった」
嘘だろ、弁論部と言えば全国大会とかでも常連だぞ。
「ちなみに議題は『現代日本市場における動向と展望』だったそうだ。」
それって、確か去年今の弁論部の部長が賞を取った話題じゃなかっただろうか。
「ありえない」
「でも事実だ、以来あの辺の一連は全く大野を勧誘していないからな」
「あまりに弱いから諦めたとか」
そっちの方がまだ現実味がある。
「そんなに口達者じゃないのか、大野は」
俺はぶんぶんと首を振る、確かにいわれて見れば大野は怖いくらい頭の回転が早い。俺の返答に宮下はだろうな、と呟いて。
「と言うわけで普通じゃないぜ、あいつ」
宮下の目にあるのは完全な好奇心だった、本当に食えない奴だ。でも信用できて頼りになるのは本当だから。
「で、どうすればいいんだ。こういう場合」
俺は意見を求める。
そう、問題は大野のことじゃない、俺がどうするかだ。
「同じ、高校なんだよな」
「ああ」
俺が答えると、宮下は自信に満ちた顔で口を開く。
「だったら決まりだ、情報を集めろ」
それは確かに、妙案だった。