会いたくて、
目を向けると、大野はすぐに見つかった。
マネージャーと他の選手達との中間くらいの身長の大野は遠目にも見つかりやすい。知らない人間に囲まれて大野は所在投げに黙って立っていた、人懐っこい性格だと思ってたがそうでもなかったらしい。それでも
「大丈夫か?」
俺が声をかけるとホッとしたように微笑んだ。
全く、他の奴らは何してるんだよ、一年を退屈させないのは基本中の基本だ。それなのに新入生にあんなきつそうな顔をさせるなんて。
「はい」
涼しい顔で大野は答える、とても部活の全メニューに付き合った後には見えなかった。
「お前って本当ブランクを感じさせないよな」
「一応、受験中も体動かしてましたから」
さらりと言うがそれは決して簡単な事じゃない、だからあの熱血柿坂だってスタミナ切れでひーひー言ってるんだ。
勉強の合間にこれだけの体力と技術を維持するにはどれだけの努力が必要だっただろう。それが出来るって言う事は、
「好きなんだな」
じゃなきゃこんなに頑張れない。
「はい」
大野が真直ぐに俺を見てまた短く答える。
だから何でそんな綺麗な顔で笑うんだよ! くそっ、心臓が早くなってきた。
大野も黙り込んでいる、耳、赤いか。
俺は何か言わなくちゃ行けない気分になって、言葉を探す
「いつから、始めたんだ」
体力はともかく正確なシュートフォームなんてバスケ以外では身につかない。
「ミニバスからだから、10年くらいですね」
どおりでうまいわけだ。
「凄いな」
どんなことでも長く続けるには忍耐と、それから強い気持ちが必要だ。俺の唇からは自然と感嘆の溜息が漏れていた。
すると、大野は自嘲気味に笑って言った。
「そんな事無いです、こんな身長だし。諦めて投げ出そうとしました」
そう、センスも勿論大きな才能だが、ことバスケットボールにおいては身長も生まれ持った才能の一つだ。それが欠けているという事は夢を叶えるのにあまりに大きな障害となる。
それでも大野の言葉は過去形だった。
陸上部に入ってみたいとかバスケ部に入る気はないとか言いながらもこんな腕を維持するほどバスケを続けている。それはつまり、
「でも、辞めなかった」
それは大野の強さだ。俺だってバスケが好きだし陸上も真剣にやっていたけれど、そんなものは比べ物にならないくらい大野は一途だ。俺の言葉に、
「・・・勇気を、貰ったから。その人のおかげで、俺はここに居るんです」
大野は愛おしそうに胸に当てていた手を握った、そいつの事を思いだしてるんだろうか、甘い顔。
澄んだ瞳の向こうの相手が酷く羨ましかった。どんな奴が大野の心に住んでいると言うんだろう。
俺もこいつもずっと附属だったからもしかしたら俺も見た事がある奴かもしれない。
そう思うと無性に悔しくなってきて、俺は何も言えなくなった。口を開けば酷い言葉が飛び出すかもしれない。
大野のもそんな俺を感じたかなにも言わなかった、だから
「先輩、飯行けますよね。」
柿坂の言葉が救いに思える。顔を向けると佐々木が思いっきり俺の事を睨みつけていた・・・言うしかないか
「おう、大野も行けるか?」
新勧の日の事を思い出してしまうからこいつと夕食というのは少し気が引けるけれど、佐々木の手前誘わないわけにもいかない。
「でも、家に食べ物あるし」
「取っておけないものなのか」
うぅ、俺だって気乗りしない相手を無理に誘いたくなった。しかも、困ったように地面を見つめる顔はどこか頼りなげで庇護欲をそそる。
分かった今日は帰っていいから今度は夕食を食べるつもりで来い。
俺がそう言おうとした瞬間。
「そんなの朝食えばいいだろ」
柿坂が大野の手を掴んで引っ張る、移動を始めた集団に連れて行こうとしているのだ。
「あ」
何でそう声を上げてしまったのか俺自身にも分からない、柿坂は今の俺にとっては援軍のはずなのに。
大野が振り向く。
俺は言葉が出てこない。
そこで大野が浮かべたのはどこか寂しそうな微笑だった。
「俺は柿坂みたいに胃袋が鉄じゃないんだよ」
同級生の方に向き直って、発したのは少し苛立たしげな声。
「なんだよ、それ」
きつい物言いに柿坂が戸惑いながら言い返す。けれどそれを遮るように
「だから、今日は帰る」
きっぱりと言って、大野は踵を返した。
「おい、大野」
俺は慌てて後を追う、義理堅い大野は俺の声にしっかり立ち止まってくれた。けど、
「何か」
「いや」
こういう場合なんていえばいいんだろう。
あれだけはっきり断られてるのにこれ以上誘うのもおかしいし、かと言って柿坂への態度を責める立場に俺はない。
「えっと・・・だから、夜道に、気をつけてな」
「はい」
俺には笑顔を見せてくれる大野、殺気の態度との落差に俺は戸惑う。
もしかして、こいつ自分が柿坂を傷つけたって分かってないのか?
いや、でも確かに大野は気を使う人間のはずで・・・。
不意に浮上してきた違和感に、その日俺はまた眠れない夜をすごした。