会いたくて、
ミニゲームが始まった途端、周囲が息を飲んだ。
走るのは遅い、練習のシュートやドリブルならみんなそれなりにうまい。だからそれまで大野を見る目にはどんな色もなかったのだ。実際にプレイを見た事のある1年生以外、誰もが大野の身長を甘く見ていた。
ガコン、
ボードに当たったボールがリングを抜ける。
歓声が大きいのはそのボールがどこから飛んできたのか知っているからだ。
試合が始まって3分、もう4度目になる3Pシュートだった。
これだけ綺麗に決めて、それでも涼しい顔でマークに戻る。佐々木に渡ったボールをカット、ドリブルで切り込んでいく。絶妙なフェイクで一人抜き二人目はターンで凌ぐ。
ディフェンスが戻りきれないゴール下、大野典型的なレイアップが新たな得点を加えた。
桁違いの技術に、試合が終わっても誰も声をかけられなかった、しかしそこに、
「すっげぇぇぇ。お前体育の時手ぇ抜いてたな、こいつ」
駆け寄ってきて物怖じせずに大野を小突くのは柿坂、やっぱり大物だよ。
「授業は全員が体験するものだろ、俺一人がワンマンしても楽しくないよ。」
他の奴が言ったら馬鹿にしてるのかとも思うんだろうがこいつはあまりにも普通にそれを言ってしまう。でもうちの部活でだってあんなに一人舞台にされたんじゃ面白くないぞ。
「おい、次の試合始めるぞ、黄色と赤は入れ。」
汗まみれの佐々木の号令で練習続行。
その間、肩で息をしている大野はコートを駆ける俺たちを真剣な眼差しで見ていた。
あれ、どうしてだ。
結構そう見られると苦手なはずなのに、大野の視線は全然気にならない。
高校の頃みたいに、自然に体が動いた。
そして練習後、
大野はマネの仕事を手伝っている、お茶を配ったりタオルを渡したり。そんな事はしなくてもいいと思うのだが、
「お疲れさまです」
絶妙なんだよ、タイミングが。
佐々木達もまだ入部していない一年を働かせていると言う事も忘れて受け取っていた。
「大野君、なんか慣れてるね」
2年の女子マネージャーは感心して大野を褒める、先輩に渡しそこねたお茶を大野が受け取って。なんかいい雰囲気だな。そう言えばこいつ最近彼氏と別れたとか言ってなかったか。
そんな風に邪推してしまう自分が恨めしい。
「うん、高校の時とかは奇特なマネさんなんてそんなに居なかったし。結局下っ端の俺たちがそう言う仕事してた。」
「そうなんだ、うちの高校では結構人気あったけどなバスケ部のマネージャーって」
ダメだ。
「うちは女子が少なかったからな」
俺は耐えられなくなって割り込んだ、だってそうだろ、好きな相手と異性のツーショットなんて見たいはず無い。
「そうなんだ」
マネはめげない、しっかり大野の方に話しかける。やっぱり狙ってるのか。
「はい、でもそれだけじゃなくて先輩に凄くもてる人が居たから。そんな動機で入るなって事であの頃はマネさんゼロだったんです」
確かに女子マネは一人入るときりがない、そのくらいあの頃のバスケ部人気は凄かった。でもそう言うって事はこいつもバスケ部だったんだよな、あれだけの実力だったらいくらあの部でもレギュラーだったんだろう。
あれ、おかしいな、バスケ部の試合は友達に引っ張られて何度も行ってるけど大野の姿には見覚えがない。
「それも、凄いね。でもうちの部はそういうの無いよ、マネさん沢山居るから」
「そうなんですか」
「うん、多すぎてローテーションにしてるくらい。今は新勧だからみんな来てるけど普段だったら週2とかだし。バイトでどうしてもだったら週1って子も居ておかげさまでとっても楽。プレイヤーさんは毎回で本当頑張ってるけどね」
「いいなぁ、俺もマネになろっかな」
はぁ?
今の台詞は、俺の聞き違いか、マネも笑顔が完全に凍り付いてる。
「大野君、やだなぁ、何言ってるの?」
冗談にしたいんだろう、気持ちは分かる。大野もその気持ちを察したのか
「冗談ですよ、冗談」
そう聞こえなかったのは、俺だけ。・・・だよな。
ちょっと問いただしてみた行きもしたが、
「おい、バスケ部、7時7時」
ハンド部がやってくる、おっともう交代の時間だっけ。
「バスケ部、撤収。体育館前でミーティングな」
佐々木の号令で俺たちは体育館を出る、その廊下で佐々木は俺を呼び止めた。
「おい、堀口、ちょっと」
「なんだよ」
俺はどちらかというとまだあのマネと大野を見張ってたいんだが。
「大野、凄いな」
「ああ」
「と言うわけで絶対入れるぞ。頑張れ」
って、何故そこで俺の肩を叩く。
「なんと言っても同じ高校出身というのは武器だからな、お前『大野係』だ」
嘘。
新入生が気を許している部員を使って確実にゲットすのはどこの部活もやっている事だ。
5月の部員登録までは練習に来ていても入部事実はないから新入生はいつでもその部活を着る事が出来る。要するに入るまでは徹底的に相手を引きつけておかなければならない。
現実には常に話しかけたり休日に遊びに誘ったり。
ってまるで女の子を口説くのと一緒じゃないか。
まずい、まずいぞ。
だって俺はそう言う意味で大野が好きなんだ、そんな事になったらこの気持ちがばれてしまうかもしれない。無いとは思うがそのことでもし大野の俺を見る目に軽蔑が走ったりしたら。
俺は考えただけで青くなった。しかし本当の事が言えない以上断れるはずもなくて、
「分かった」
承諾するしかなかった。