小説みたいな恋をして
一二月一五日、唯史は朝からそわそわしていた。
なんと言っても今日は天原雫の新刊の発売日なのだ。少しでも早く読みたくて朝からコンビニなどにも寄ってみたが勿論そんな所にその手の本が売っているわけがない。
「唯史。」
電車が来る2分前、ここに来て自分の名前を呼んでくれるのは今は恋人になってくれた光紀だ。
「そう言えば今日って、期末の発表日だったよね。」
光紀は敢えて自分の仕事の事には触れない。と言うか恥ずかしいから買うなと唯史にくぎを差している位なのだ。放課後は一緒に帰るからまた本屋に寄れない。
光紀の事は大好きだが好きな本を買うのを暫く待つのは少し辛かった。
電車が学校のある駅に近づくと、光紀は眼鏡をかける。実際のところ視力はそう悪くないらしく眼鏡など無くても生活には困らないのだ。しかし文化祭以来どうも言い寄ってくる男が居るらしいのである。同姓にラブレターなんて正気の沙汰ではないと思うのだがあの女装をみてしまえば仕方のないことなのかもしれない。で、かけている方が特別視されにくいので未だに人前では眼鏡をかける事にしているのだ。しかし唯史と二人きりの時は絶対に眼鏡はかけない、不思議に思って一度尋ねてみたのだが。
「自分の前でだけ違う顔って言うのもいいでしょ。」
にっこりと笑って言う彼は自分の魅力をちゃんと知っている。前から薄々思っていたのだがどうやら光紀の本性は相当な小悪魔らしい。
学校に近づくと憂鬱そうな奴が何人か歩いていた、きっとテスト結果に自身がないのだろう。いつもならば唯史だってこんなに明るくはしていられないのだが今回は違う。なんと言っても今回のテストは光紀と一緒にいつもより真面目に勉強したのだ。むろん出来も相応のものである。
掲示板に着くと唯史は自分が三〇番近く成績が上がっていることに気がついた、新記録。しかし次に光紀の名前を見て驚く、
なんと光紀は学年4位だったのだ。
しかし光紀は全く驚いた様子もない。
「今回は、勉強したから。だって試験の時にも言っただろ、回答は埋めたって。」
しかしだからといってそれだけで取れるような成績ではない。
「でも、今まではこんなにすごくなかったよな。」
真ん中くらいで唯史の方がいいくらいだったのだ。
「ああ、高校入ってからはどういう訳か試験中はいつも〆切だったんだよね。」
つまりは実力試験で真ん中につけていたと言うことだ。唯史は改めて自分の恋人の天賦の才を知り、自らを振り返る
「どうかしたの?」
「いや、俺もお前に相応しいように頑張らないとな。」
今は完全に負けてしまっているけれど、光紀に対して恥ずかしくないように自分というものを持っていきたいと思う。
「今のままで十分なのに。」
決意に燃えて自分のやりたい事を考えている唯史にはその台詞は届かない。
「ほら、授業始まるよ。」
だから強く手を引いて光紀は歩き出す。
「ちょ、光。」
「大丈夫だよ、このくらい友達友達。」
ともあれ二人の恋は、まだ始まったばかり。
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